報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和55年3月16日 二昔前の阿波のグレ釣り(7)
”技”に残る伝統
20年前を境に「阿波のグレ釣り」に変化の起こったことを述べて来た。つまり、釣具の面では大きく進歩した反面、釣りマナーや、ルールの面ではもろくも崩壊し、古き良き時代の面影が少なくなってしまったということである。たで、釣り技の面で、阿波釣法はいまだに連綿としてその伝統を残している。
たとえばエサの重視。少なくとも一日20`は最低持参する。そして、これを少量ずつ万遍なく撒いてやり、「グレを寄せておいて」「寄せたグレを散らさない」ように腐心する。
竿は短尺好み。徳島の釣具店が販売するグレ竿の90%は4.5bものだ。最近カーボンロッドが出回り、極端に軽量化されたからこそ、5bものも売れるようになったが、とにかく短い竿、つまり軽い竿を重宝する。そして、グレが掛かったときは、グレにペースを取られるのではなく、こちらがペースメーカーとなるのである。
そのためにも、竿は利き腕である右手から放さない。つまり、リールは左手で巻くわけだ。それも、ギリギリと力一杯に巻くのではなく、竿を立てながらグレを引き寄せ、いったん立てた竿を思い切り前に倒し、その時出来たリール糸のフケを、速やかに巻き取るだけなのだ。いわば「グレの虚を突く」この釣り方を、「グレの早取り法」といって、奥義のように言われてきた。
こういう釣法だと、ハリスは案外細くてすむ。細いハリスは、知能指数の高いグレを騙すのに有利であることは論を待たない。
一面「徳島の釣り師は細いハリスを使って困る」というようなことを高知、愛媛の船頭衆の口から聞くことがままある。だが、阿波では、昔から、「ハリとハリスとサオのバランス」を口やかましく言われてきた。サオとのバランスが取れていれば、細いハリスも結構強いものだ。例えばヒラマサを釣るような強竿にセットした5号のハリスよりも、適当なしなやぎを持ったグレ竿にセットした2号のハリスの方がどれだけ強いものか。「細いハリスを使って困る」というのは、せっかく掛けたグレをバラしてしまっては釣り荒れするという意味だろうが、それは当たらないと思う。サオや、ハリスや、ハリを性能ギリギリのところまでいじめて、自分のテクニックを浮き上がらせるーーこんなところにも、スリル溢れるグレ釣りの妙味があるのだ。
「多いマキエサ」「短いサオ」「リールの左手巻き」「細いハリス」ーーこれらは、いまだに数多くの阿波のグレ釣り師に支えられて、昔のままの面影を残しているのである。(この項、つづく) (報知APG・高橋 康生)