報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和55年10月12日
船頭稼業@ 釣果も気分も安全もその手に
釣り人、特にイソ釣りファンには、最も密接な関係にある船頭さんにスポットを当ててみよう。
人それぞれ顔が違うように、船頭さんにもいろいろ特徴がある。親切な人、かたくなな人、名人芸の出来る人、、など、十人十色だ。だが、われわれ釣り人たるもの、船頭さんによってその日の気分が大きく左右されるのは避けて通ることの出来ない現実でもある。
過去に船頭さんの性格を浮き彫りにするような出来事がいくつもあった。
牟岐のA船頭はいわゆる口やかまし屋だった。ガミガミうるさいことこの上ない。いつもこぼしてばかりいるのだ。天気が悪いこと、魚が釣れないこと、釣り人の腕が低下したことなど。果ては、「なんで海の色は青いんや、空の色とまぎらわしいやないか。」といったぐあい。別に悪気はないのだがとにかくうるさいので、「他の船に替わったろか、、?」などど仲間同士で相談していた頃、ちょっとした出来事があった。
Mさんが船のヘサキからまさにイソへ飛び上がろうとした瞬間、足を踏み外してあわや海へドボン!と思われた寸前、ヘサキに立っていたA船頭の赤銅色の腕がスッと伸びてMさんの首筋をつかまえた。「ムンズ」といった感じだった。Mさんは海へ落ちるのを免れた。私達がA船頭を見直して以後もずっとお世話になっていることは言うまでもない。
B船頭の場合はこうだ。その昔、福村磯では親船が子船を曳航していた。親船はエンジンの音がやかましいが、子船は静かなので、道中、釣り人の話もはずむとあって人気があった。
ーある日、この二隻が釣りを終えて帰港すべく沖合で止まっていた。潮の流れで子船は親船と直角の位置になった。子船のヘサキでSさんが立って、釣った魚を見せていた。と、突然、エンジンが始動して、親船が動き出した。子船のヘサキはモロに引っ張られ、Sさんは足をすくわれてそのまま海中に転落した。
「すまんこっちゃ。ごめん、ごめん。」と言うだろうと思ったら、B船頭の口から出た言葉は、なんと、「あほんだら。そんなところに立っとるケン落ち込むんじゃ。」ー乗っていた面々、あきれかえって開いた口がふさがらなかったものだ。
C船頭は、最近開業したばかり。釣り人の気持ちを掴むことができるかどうか自信がない。そこでこまめに釣り人の意見を聞き、それを実行に移した。見回りは一時間ごとだ。場所変わりにもイヤな顔をせずに応じてくれる。弁当や、ジュースn注文まで聞いて配達してくれる。そうなると人気はうなぎのぼり。釣り人がどんどんつめかけて、繁盛しているのは言うまでもない。(この項、つづく) (報知APG・高橋 康生)