報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和55年10月19日 

船頭稼業A パートナーシップ

 イソへ上がる。どうしたものか潮が悪い。エサトリが多くて手も足も出ない。・・他のイソへ上がった釣友たちはどうしているやろうなあーなどと思い始めたら、無性にイソ替わりしたくなる。
 船頭氏が見回りに来る。合図をして、「イソ替わり」の意思表示・・。このとき、近寄ってきた船頭氏の言葉は大体三つに分かれている。
 そのひとつ(Aタイプ)は、「釣れまへんか。そんならどっかへ替わってみますか。」
 もうひとつ(Bタイプ)は、「どこでも釣れてへんでぇ。どこへ替わっても同じこっちゃ。それに、替わる場所もあれへんし。」
 そしてあとのひとつ(Cタイプ)は、「もうじき、ええ潮になる。そしたら、このポイントも釣れ出すさかい、辛抱してみなはれ。」
 ・・釣り人たるもの、この三つのタイプのうち、どれを高く評価するだろうか。

 Aはサービス型、Bは横着型、Cは職人気質型というべきか。Bに拒否反応が起こるのは当然として、AとCとはちょっと微妙な差が出来る。だがCになるには、よほどの勘とと経験がいる。助言通りにして釣れたらよいが、釣れなかったら「やっぱり場所を変わっていればよかったのに」という悔いが釣り人側に残る。・・とすれば、結局は釣り人の言うとおり、「替わる」といえば、気持ちよく替えてくれる船頭のウケが良いのは当然だ。
 Aタイプを目標に客扱いをすれば、繁盛間違いなし、とわかっていながらも、かなりの数のBタイプが存在するのは不思議な現象だ。

 ごく最近、あるクラブが四国西部のある釣り場へでかけた。Mかんじは、事前にイソ上がりの順序、その他について、丹念に船頭と打ち合わせをしておいた。にもかかわらず、船頭側の不注意でその段取りが狂ってしまった。もともと、Bタイプの典型のようなその船頭は、自分のミスを棚に上げて、頭ごなしにMさんに食ってかかりだした。そればかりか、いったんイソ上がりした者にも、そのあと一切イソ替わりをさせなかったと言うからすさまじい。M幹事以下、一同あきれ果ててしまったが、言葉は返さなかった。だが、心の中では、今後は一切お世話にならぬことを決めていた。
 ただひとり、Yさんだけは、役者が一枚上だった。船頭に拒否されても、あくまでポーカーフェイスで、「替わるところないか知らんけど、替わりたいんや。頼むワ。」といった調子。すると、ブツブツ言いながらも存外あっけなく応じてくれたそうだ。この調子で前後三回イソを替わったというから、上には上がいるものだ。

 釣り人と船頭。相性の善し悪しもあろうが、その日の釣果も、気分も、安全も、すべて船頭次第。息の合ったパートナーとしての長いお付き合いを願いたいものだ。      
     (報知APG・高橋 康生)