報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和54年11月11日 サンタの願い
ワテはサンタだす。もっともこない呼びはんのは徳島の人でっけど、関西一円では「三の字」とか「三公」とか言われてまんねん。だいたい「ンタ」が付く呼び方は、あんまり上等やおまへん。どっちかいうたら、顔形が道化じみたもんにつけられてるようでんな。ワテの仲間のイガミもかわいそうに「ゴンタ」とよばれてま。
そら、ワイの顔はお世辞にも、チヌやぐれみたいにキリッとしとるとは言えまへん。口はとんがってるし、ウロコのないサメ膚やし、尻尾のところに焼き印のように三の字のマークがおま。
そやけど、ワイは力がありますのやで。同じ大きさのぐれにも、アイゴにもひけはとりまへん。ハリにかかったワテは、それこそ一所懸命に戦いまんのや。ワテは真面目にやってまんのやでぇ。
釣ってる人も必死だす。顔をひきつらせ、体を硬うしてサオにしがみついて、リールを巻いていま。せやからワイが、渾身の力を振り絞ってプチンとハリスを切ったったら、放心したようにこんなことをぬかしよりまんねん。
「惜しかったなあ。今のは大きいグレやったのに。」
まあ、これくらいのことは許せまっけど、けしからんのは、ワテが軍門に下って、水面近くに引き上げられた時だす。たいていの釣り師が急に力を抜いてこういいまんねん。
「なんや、サンタか」
そのあげく、いらんもんみたいに海のなかへケリ込まれたり、そのままイソの上に放られたりでんねんで。
ま、ワイが嫌われるのんは、外見だけでなしに、味にクセがあるのも原因のようだんな。けど、これも、釣ったあとすぐに尻尾を切り離してもらうか、腸を出すかして、血抜きをしっかりしてくれはったら、そんなに気になるもんやおまへんで。料理してもろたらわかりまっけど、ワイの身はほんまにきれえな身でっせ。上手に料理してもろたら、タイや、グレにひけは取りまへん。チョイ見だけで、変な先入観持たんといてほしいわ。たのんまっせ。
さて、世の中、200海里時代だす。魚は貴重な蛋白源でっせ。それにグレやイサギは年々減ってるのに、ワテは今年あたり異常繁殖だ。
料理屋で出される白身のサシミや、チニ鍋のネタは、案外ワテかも知れまへんでぇ。もしかしたら、あんさんはウマイウマイ言うて食ってはるのと違いまっか。
こんどから、ワテを釣っても、グレ並に大事に扱こうとくんなはれや。たのんます。その代わりワテも一所懸命ハリス引っ張って、あんさんに楽しんでもらいまっさかいな。よろしゅうに! (報知APG・高橋 康生)
筆者からひとこと: これも予想通り、グレ、イサギ、チヌが激減しましたが、サンタは以前より多いくらいに繁殖しています。