昭和59年2月2日

報知新聞釣り欄:「魚心」より

ジャンケンの名人:難関アシカバエを制圧

 徳島県釣連盟の初代名人、小里哲也さんは、人間味豊かで朗らかな人だ。その明るさは、時には無邪気の域に入り、まるでピーターパンのようなイタズラごっこになることもある。
 
 釣りの帰途、仲間と喫茶店へ入る。コーヒーを注文しておいて、だれかがトイレへ入る。コーヒーが出る。ややあってトイレから帰る。間髪を入れず小里さんは親切顔でたずねる。
 「砂糖は何杯?」
 「すんまへん。二杯たのんます」
 小里さんは、したり顔で砂糖をスプーンに二杯入れる。
 さてトイレから帰ったこの哀れな犠牲者は、スプーンをカップに突っ込んでアッと言う。底にはすでにすごい量の砂糖が溜まっていたのだ。

 この小里さんに特技がある。
 それは、牟岐の出羽島のアシカバエへ「上がろうと思えば」、ほとんど100%の確率で上がれるのだ。
 この名礁アシカバエは、津島からかなり離れている上、出羽島では唯一の磯。しかも魚影の濃さにおいては、大島、津島のどの磯にも勝る。当然、だれもが狙っているわけだが、現実にはオイソレとは上がれない。そこには色々な制約があるからだ。

 第一に、定員はやっと三人が限度。だから一隻の船を三人で借り切る必要がある。つまり四人以上の釣り客がいるときはここへは向かえない。
 第二に、決められた時間(大島、津島と同じ)に集まった他の船とジャンケンをして勝たねばならない。大抵の場合、三隻ほどが集まるが、それでは確率が低い。

 小里さんは、行きつけの船頭さんにすごく顔が効く。だから第一の条件はパス。だとしても第二の難関がある。これをほとんど100%クリアーしているから見事な者だ。それは小里さんが、考えながらジャンケンしているからだ。
 たとえば、寒いとき、人は手を広げたがらない。多分グーをするだろう。だからパーをせよ、というのが小里式ジャンケンだ。暑い時にはその反対。人は手を広げたがるから、こちらはチョキをすればよい、というわけ。

 もちろん、これは基本であり、このほか、相手の性格によっては変えることもあり得るし、二回戦にも備えなければならない。だが、大抵の場合は、基本作戦だけd充分勝てるそうだ。
 とは言え、こんなところで秘訣を公開してしまったら、今後は小里さんも思うようにならないかもしれないが、、、。
                                       (報知APG:高橋康生)