報知新聞・魚心/昭和58年5月14日
「急がば回れ」肌で実感
つい先日、高知県沖ノ島へ出かけた。一日だけの釣行だったので、かなり疲れた体で帰途についた。特に疲れた理由は、クーラーの中身が貧弱だったことにもよる。
「あんた、いったいどこへ行っとったん?」
開口一番、遠慮会釈なしにたたみかけるであろう家内の顔が浮かんでは消える。
日が暮れた。運転は二人で交代するものの、思考能力はだんだん衰えてくる。
国道とはいっても、一車線でしかない。それに午後8時ごろからは大型トラックの数が増える。
「早く帰りたい気持ち」と、「せいて事故を起こしてはならない気持ち」とが交錯する。
上がり坂になった。先に行く同行車の一つ前を走っていた大型トラックのスピードが落ちた。同行車が抜いた。私も続いて抜こうとトラックの横に出た。
長いボディーの中頃まで来たとき、思いがけなくもトラックも加速しはじめた。しばらくは平行線のままだ。それにしても意地の悪いヤツ。まるでアメリカ映画「激突」さながらの場面だ。
後続車を気にしながらブレーキを踏んで減速し、もとの位置へ戻ったのと、曲がった前方から同じような大型トラックが、すごい勢いで飛ばしてきたのが同時だった。瞬間「ヤラレタ」と思ったほど。一分ほどたって体が震え出した。
* * * *
何年か前、牟岐からの帰りにこんな場面を目撃した。私の車を、一台の乗用車がすごい勢いで追い越した。次の瞬間、その車は横振れがしたのか、前方から来たバンと接触し、したたかに相手の車を山際に押しつけた形になった。当然バンは止まってしまった。乗用車は2,30b走って止まった。すると、思いがけなくもバンが燃えだしたのだ。
幸い運転手は一人で、しかも若者だった。すぐ飛び出したから良かったものの、もし、おんな、子供でも後部座席に乗っていたら大惨事を引き起こしていたかも知れない。
火の勢いが強くて、私は手前でストップ。ただ呆然とその光景を眺めていたが、ものの5分も経たないうちにバンはきれいに全焼してしまった。
聞いた話だが、こんなこともあった。Aさんの場合は、後ろから追い越した車が、目の前でガードレールを破って土手の下へ飛び込んでしまったのだ。
Mさんの場合は、これもすごい勢いで追い越した車に、舌打ちしながら運転していたら、5,6`先で人だかり。フト谷底を見ると、まぎれもなく、その車が転落していたのというのだ。もちろん、ともに死亡事故につながった。
共通しているのは、いずれも「追い越し」という行為で起きた惨事。改めて私がその惨事の主役にならなかったことに胸をなで下ろした。
ご同輩、よほど慎重にやらないと「追いこしは 冥土の旅の アプローチ」になりかねませんぞ。
(報知APG・高橋 康生)
筆者から一言: