報知新聞・魚心/昭和58年5月7日

所有権はどちらに:あなたならどうする

 「バキッ」とイヤな音がした。フト見ると、並んでグレを釣っていた家内の竿が手元から”へ”の字にに折れていた。どうやらヒラマサの急襲に遭ったらしい。5年ほど前、牟岐大島はヒッツキでの出来事である。
 30分ほどたって、またもや彼女の嬌声が付近の空気をつんざいた。今度は、「はよう、はよう」と助けを求める声だ。またまたヒラマサがかかったのか。それにしても、私の方はグレばかりだというのに、ヒラマサのヤツ、相手を見て食いつきよるのか。

 今度は竿こそ折れなかったが、家内から竿を引ったくったとき、すでにリール糸は残り少なくなっていた。
 劣勢を挽回しながら聞いてみた。
 「ハリスはなんぼや」
 「それが1.5号よ」
 「アホか。ヒラマサが来るのが分かっとって、なんでそんな細いハリス使うのや」ーー半分は、自分だけに来ないヒラマサへの腹いせのような感じでもあった。

 幸いテキは沖へ突っ走った。ゆっくり右へ、そして左へと泳がせた。かなり大きいようで、ずいぶんと息が長い。そのうち腕が痺れて来た。足も心なしか、ガタガタし始めたようだ。やっとの思いで手元に寄せたが、なかなか軍門に下らない。
 受け玉をもつTさんは、ヒッツキの”低”と”東”を4,5回往復。揚げ句にやっと仕留めることが出来た。なんと76a、4.1`という代物だった。

 だが、悔しいではないか。家内は後日、このヒラマサのことを話す度に、「私の釣ったヒラマサは...」という表現を使って憚らない。
 それに、聞き手も(大抵は男性だが、、、)納得して聞いているから、私の苦労は報われないままだ。
                *     *     *     *

 ところで、今年の福村磯での乗っ込みチヌは予想外によく釣れている。一番(磯名)などは毎日のように10人を超す釣り人で賑わっている。だからこんな現象が起こった。
 つまり、ウキが引く。合わせる。真剣にやり取りしていると、隣の人も竿を曲げている。しばらくあしらって、やがて受け玉で掬う段になって、隣の人と同じチヌをかけていることに気付くのだ。

 つい先日は、同じ日、同じポイントで、同じことが二度も起こった。この時は二人が仲良く一尾ずつ分けた。
 昨年も、全く同じことがあった。この時は一瞬陰険な空気が漂った。するとSさんという世慣れた人が居合わせて、仲介に立った。
 クジで決めようというのである。面白いのはクジの数が三本あったことだ。”1”を引いたらOさんのもの、”2”を引いたらXさんのもの、そして”3”を引いたらSさんが頂戴するというルールだった。幸か不幸か、魚はSさんの手に渡らなかったが、世の中にはいろいろな「事件の解決法」があるものだ。 
                                 (報知APG・高橋 康生)

筆者から一言: