報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和56年6月13 

思わぬ被害

 長いこと釣りをしていたら、時々信じられないようなことが起こる。
 何年か前、よく澄みわたったある秋の一日、私は福村の丸島でチヌ釣りを楽しんでいた。当時は、赤アミエビを使い始めたばかりで、これを撒くと、大型チヌが水面近くまで浮き上がってきて、狂ったように就餌(しゅうじ)しているのが見られたものだ。
 こんな光景を見たら、釣り人の方も頭がカッカしてくる。しかも、生き餌時代には常識だった0.6号のハリスが、この種のチヌに合うとプツプツ切られてしまうのだ。
 このとき私も、0.6号で2回切られ、0.8号に変えてやっと1尾仕留めた。
 サオを置いてチヌをクーラーに入れていたら、隣にいた0さんがそばにやってきて、0.8号を貸してくれと言う。
 「釣り師は相身互い」。私は快くお貸しした。
 ーところがお産が去っていった後、そのイソ靴の音がなぜか耳に残った。一瞬イヤな予感がしたが、私は続いてウキを打ち込んだ。5分もたたないうちにウキは勢いよく水の中にケシ込んだ。すかさず合わせをくれてやったら、、、。何の手応えも無く、サオとウキとは泣き別れ。ーやはりOさんは、私の道糸をイソ靴の剣で踏んでいたのだ。悪意でしたことではない以上、Oさんを責めることも出来ず、これは私の「泣き寝入り」となった。
 5,6年前にもよく似たことがあった。私が大物をかけた。横にいたKさんが気を利かして掬いに来てくれた。首尾よく掬ってくれたのはよかったが、自分の場所へ帰る時、体がフラついた。次の瞬間、Kさんの足は、思いきり私のカーボンロッドの手元を踏みつけていた、、、。これは私の「折られ損」。
 以上は、被害を受けた話だが、最近、不本意にも私が加害者の立場に廻ってしまった。
 Y船頭と二人でグレを狙っていた。50aはあろうかという見事なグレを釣ったY船頭に、「そのまま、そのまま。ちょっと写真写しとくさかい」と待ってもらって、リュックの中からカメラを取りだした。
 急いでシャッターを押そうとしたら、インジケーターがRのマークになったまま。これはフィルムが入っていないことを意味するのだ。
 「早う早う。重い重い。」とY船頭は催促する。ーおまけにニッと笑って硬い表情でポーズを取っているのだ。
 「フィルムが入ってまへんのや」とも言えず、私は空のシャッターを2,3度切ったが、顔から血の気が引き、胸の動悸が高鳴ったその時の苦しさはいまだに忘れることができない。
 「本当にごめんなさい」と、今ここでも頭を下げたいくらいだ。
         (報知APG・高橋 康生)



筆者からひとこと あれから24年。こんな想い出は、それがまるで昨日のことのように鮮やかに脳裏に浮かびます。こんな出来事は、釣りを更に面白くするスパイスのようなものですね。