報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和54年6月24日 オデコとボーズ
息子がマンガの本を貸してくれた。人気絶頂のツリキチ三平が友釣りをするくだりが掲載されていた。初心者にもわかりやすく、一応釣りの原理などが説明され、ストーリーもきれいにまとめて、なかなか感じの良いさわやかなマンガだった。
だが読んでいて感じたことは、釣りの雰囲気がどこかちがうのだ。
関西では、すでに常識のようなことでも、かなり理屈っぽく強調されたり、三平は別として魚を釣ろうとする熱意が、なにかもう一つ迫力に欠けているのだ。これは、関東と関西の釣り人気質の違いだとすぐ気がついた。
関東では、何の釣りでもそうだが、まずん理論が先行しているようだ。それに百家争鳴ーかなりの人達がそれぞれの説を唱えているが、それでいて、多数の共鳴者がいるようにも見受けられる。
これに対して、関西はあくまで実利主義。理論は二の次、まず釣れなくてはならないのだ。釣りの本の売れぐあいひとつでもこのことがわかる。釣れなければナンデつれんのやろうとカッカくる人は随分多いし、つりにきたからには、釣って帰らないと恥という考えも根強い。そして、良く釣り人がいたら、なりふり構わず、その人の仕掛け、釣り方などをそのまま吸収してしまおうとする。
端的な例がアユの仕掛けだ。関東ではいまだに、やれチラシだのヤナギだのマツバだの三本イカリだのと、気が多いのか迷っているのか判らないような感じだが、関西では三本イカリが圧倒的に多い。これは永井さんや大西さんらの名人たちが口を揃えて「三本バリが勝負が早い」などと言っているのを、すぐ自分のものに取り入れている証拠だ。
私は別に、コトの善し悪しをうんぬんしているのではない。たかが遊びだから、自分の好きなようにやればよいのだ。
ただ、関東に軍配を上げたいものが一つある。それは釣果ゼロのとき、関西ではボウズというが、ツリキチ三平によれば、関東ではオデコという。ボウズというのはあきらかに蔑称であり、好ましい言葉ではない。同じ「ケがない」という隠語にせよ、オデコとはなんとユーモラスな表現だろう。
ついでだが、わが徳島県では「ニギリ」という。かたく握り込んだ手の中には何もないという意味で、若干開き直った感じがある。
いずれにせよ、釣り人たるもの、オデコ、ボウズ、ニギリにだけはなりたくないものだ。(報知APG・高橋康生)
【筆者からひとこと】あれから25年。マスコミによる標準語化が進んで、残念ながら徳島の「ニギリ」という言葉は死語となり、今では100%「ボーズ」が使われています。