報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和54年10月14日 水鳥の脚


 塩田淳さん。41歳。色は黒いが、目の大きい童顔はどう見ても30代前半だ。人も知る投釣りの名手。
 報知新聞主催のキス投釣り名人戦には初回からずっと参加、その度にいつも上位に食い込んでいる。最悪の成績が11位で、後は大抵5位以内にとどまるという好成績だ。
 今年も数々の大会で好成績を残した彼は、7月8日の全日本クラブ対抗キス投釣り選手権大会(淡路島)では個人、団体ともに見事優勝の栄冠を獲得した。
 そして10月7日、本社のキス名人戦予選では、最悪のコンディションにもかかわらず、15尾を釣って優勝かと思われた。だが、今年から参加することになった関東勢に僅差で破れ、予選での優勝を見送った。もし、関東勢が参加していなかったら、あるいは塩田名人誕生の可能性が目の前にぶら下がっていただけに、塩田さんのこの不運は何としても残念であった。
 火災保険会社に勤める彼は、家庭では二児のよきパパ。長男(中1)も、次男(小5)もともに無類の釣り好き。単身自転車を駆って、片道30分の道のりを吉野川へハゼ釣りに出かける。奥さんも塩田さんの釣行には最高の理解を示す。それもその筈、子供たちの面倒を見ながら、病弱気味の奥さんをこれほど親身に世話する人を私はほかに知らない。まさに、釣り一家という感じだ。

 毎日の仕事が終わったあとの塩田さんの日課は、投釣り仕掛けの針を結ぶことだ。これは一日最低一時間はやるという。だから毎日曜日に出かけている彼にとって、その仕掛けは二日前、つまり金曜日には完全に出来上がっているわけ。
 その仕掛けたるや雨、風、波などの気象条件や、魚の食い、釣り人の多少などあらゆる条件に合うように最低40組は用意するという。計算したら、釣り時間よりも仕掛け作りの時間の方がはるかに長いのだそうだ。
 なんでもそうだろうが、やはり人に抜きんでる人達は、水鳥の脚のように、人の目につかないところで苦労を重ねているものだ。不運にも今回の報知名人戦で、その労苦は報われなかったが、さらに塩田さんが投釣り一筋で大きく飛躍することを望みたい。
                                  (報知APG・高橋 康生)

筆者からひとこと: あれから25年。昨年の7月13日、鳥取砂丘で行われた全日本クラブ対抗キス投釣り選手権大会で、塩田さんは身事、個人優勝の栄冠を得た。苦節四半世紀、執念が実った一瞬であった。