報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和57年7月10 

前から後ろからの波に注意

 「前から後ろから」などと書けば、ボルノ映画の題名と間違われるかも知れないが、この話はそんな悠長なムードではない。
 先日、徳島県釣連盟のイサギ釣り大会が牟岐大島で開催されたが、その時ヒッツキの船着きで一人の選手が波にさらわれた。
 幸いこの選手、Nさんは、まだ年も若かったし、膝と肘にカスリ傷を負っただけで大事に至らなかった。だが、その時の模様を話してもらったら、ずいぶん無謀な点も目に付いた。以下ご参考までに再現してみると−−。
 
 Nさんがヒッツキノ船着きへ上がったのは、当たりくじの船の人が上がった後だった。そのころ、ヒッツキやホリモンなどといえば、数少ない人気磯の一つで、ポイントが空いているはずがないのだ。それが空いていたというのは、その日ウネリが高く、船着きというポイントは危険だと判断されたからだろう。これが第一の無理。

 波は絶えずNさんの周辺に渦巻いた。身の軽いNさんも、さすがに不気味になった。特に後ろのオオバエへ当たって跳ね返る波には、特に気を配っていたという。ところが意地の悪いことに、Nさんの足をすくったのは、後ろからの波ではなく、前からやってきた大波だった。これが第二の油断。

 もんどり打って海中に投げ出されたNさんは、海に沈んで、二、三度回転してしまったらしい。ヒッツキへ上がっている人たちも、固唾を呑んでNさんの行方を見守った。若いNさんは、素早くオオバエにはい上がったが、もう無我夢中。だが、その手にはしっかりと高価なカーボンロッドが握られていたという。これが第三の無茶。幸いNさんは、これらの三つの危険な要素をクリアーしたわけだが、彼がもし若くなかったらどうだろう。要領が悪かったらどうだろう。恐らくは惨事につながったに違いないと思うとゾッとする。

 何年か前にも磯から海の中へたたき込まれた人がいた。ずいぶん冷静な人で、海中で目を開けて、水泡の行方を観察し、どちらが水面かを判断したという。
 船が助けに来てくれた。船縁へしがみついたら、この人、まず一番に、磯グツを片方ずつ脱いで船の中に放り込み、それから自分もはい上がった。
 「クツなんか、どうでもええやないか」と船頭に言われたときのこの人の答えがふるっている。
 「せやけど、あれは借り物ですねん」
  
 命あってのもの種ー。とにかく、非常の際は、道具などにはこだわらず、二度と買うことの出来ない命を最優先することですなぁ。だが、それより賢明な人は、そんな危険な場所は、絶対避けることデス。     
          (報知APG・高橋 康生)


筆者からひとこと