報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和56年3月8日
効果あった?!”海中視察”
Tさんは熱心なグレ釣り師だ。昨年、徳島県釣連盟主催のちぬ、グレ釣り大会で両方とも見事入賞した。ホームグラウンドは主として徳島県下のイソである。そんなTさんが2月27日、むぎへでかけた。珍しいことに、早朝、ここは5aもの雪に覆われていた。それて、牟岐港にたたずんだのはTさんひとり。気の毒がるTさんを乗せて、Y船頭はそれでも牟岐港を出た。雲は低く垂れ、雪は真横に降った。
−釣りどころではなく、「一、二時間釣ったら、もう家へ帰ろう。どうせこんな日は、釣れんやろうから」と思いながら、最低の荷物とエサだけを持って、Tさんは津島の「佐尾山」へあがった。
ところがTさんの予想を裏切って?朝から入れ食いになった。10時頃までにグレが5尾、チヌが1尾、ボラが2尾釣れたところでエサが切れた。
朝から思いがけないことの連続だったTさんが、エサを補給しようと船頭を呼び、まさに船に乗り込もうとしたとき、さらのに思いがけないことが起こった。−波で船が急に横にそれ、掴んだつもりのヘサキの手すりに、手袋だけを残して、Tさんの体はあおむけざま、海の中にドボン。幸い若さと体力に不足はないTさんのこと。すぐ船の上へ這い上がったが、もちろん寒さで釣りは中止、家に帰った。
二日後の3月1日、再び牟岐を目指したのだからTさんの熱心さはご立派だ。今度は3人連れだった。幸い日曜にもかかわらず、津島はがら空きで、Tさんは目指す「佐尾山」へ上がることが出来た。この日も朝から雪が降りしきった。しかし波はなく、水温も17度まで上昇していたので、またまた昼までにグレ5尾という好結果によくした。その中には50aという、最近としては珍しい大物も入っていた。船頭が褒めそやすと、Tさんはすかさずこう答えたそうだ。 「二日前、落ち込んだついでに、大物の居る所を見ておいたんや」
私の友人で海へ落ち込んだことのある人を二人知っている。一人は救命具のない時代。海の底からあぶくがだんだん」遠ざかっているのを見て、「こらあかん。海の底へ沈みよる」と判断して、犬かきで必死に浮き上がってきたそうだ。もう一人は、救命具を付けていたので事なきを得た。落ち込まないのに越したことはないが、落ちてしまった場合、もっとも大切なことは冷静に判断して対処することだろう。 (報知APG・高橋 康生)
筆者からひとこと: 救命具と携帯電話の徹底で、イソの海難事故は激減しました。それにしても、守って頂きたいことが二つあります。一つには、単独行動は避けたいものです。特に、視野に釣り人がいないような場所での釣りは敬遠しましょう。二つには、もし落ち込んだ場合、イソへ向かって這い上がるよりも、沖へ向かって船頭の来るのを待つ方が賢明のようです。