報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和54年12月16日 冗談とエチケットのけじめ

 私の友人に、「変な外人さん」がひとりいる。ノーマン・エドワーズという44歳の英国人だ。どういうわけか徳島が好きで、以前2年ほど住みついていたが、滞在ビザが切れ、お別れする羽目となった。何年かたった挙げ句、昨年秋、ひょっこり姿を現した。 日本を去ったあと、サウジアラビアで職を見つけ、一年間働いて金を貯めた。そして、1ケ月の休暇を貰ったので、日本に”帰った”のだ、という。もはや徳島は故郷のイングランドより魅力があるのだそうだ。
 その理由の一つに釣りがある。この人の釣り好きは徹底しており、報知新聞の投釣り大会や、ハエ釣り大会に何度が参加した。
 帰って三日目、早速エドさん(私たちは彼をこう呼んでいる)は、私のイソ釣りについてきた。どちらかと言えば、彼は英国人にしては珍しく陽気な方で、道中の車内はジョークの連続だ。
 たとえば早朝、まだ暗くて人通りの少ない道を走っていて、人や車に出会ったとする。するとすかさずー
 「多分あのひとは、ドロボーか、ポリさんか、釣り人やで」といったぐあいだ。
 ところが釣り始めたら、人がかわったように熱心になる。何度か私とイソ釣りに行っているので「阿波釣法」も身に付いている。釣れようが釣れまいが食事以外は休まない。ポイントを変わってみたり、仕掛けを変えてみたり・・・。とにかく熱心なのだ。私のクセもよく知っていて、ちょっと釣れないと
 「そろそろ、ヒルネの時間でっせ」とくる。そして、私が昼寝に及んでも自分は休まない。
 さて、この日は申し分のない上天気だったが、釣果の方は芳しくなく、私はグレ1,ボラ1のみ。彼は完全なボーズだった。私が気の毒がって
 「すまん、えらいこっちゃ」というと、ジョークを言うときとは打って変わって、急にまじめな顔つきになり
 「何言うとんのや。気ィ使わんといて。何とも思うてへんでぇ。今日は天気が良すぎたんや」とかえって慰めてくれるのだ。
 釣りに熱心だということは、それだけ釣れなかった時の口惜しさもひとしおだろうと思うのに、その感情を抑えておくびにも出さない。
 この英国式のジョークとエチケットの上手な使い分けは、日常生活におけるわれわれ仲間同士のつきあいのうえでも重要な事だと思う。
 余談だが、このエドさん。まだ独身で、目下花嫁募集中。早く、やさしい日本の嫁はんをもらって、好きな日本でずっと釣りを楽しんで貰いたいと願っているのだが、、、。
                                (報知APG・高橋 康生)

筆者からひとこと: エドさんは、あれから5,6年後、タイへ移住し、そこでお嫁さんを見つけました。でも、徳島のようなすばらしい釣りが出来ないことを一番残念がっていました。