報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和56年4月11日
八丈島(2) やっぱりきてよかった
やっと八丈小島のセイズゴウという磯に上がれたが、風邪にたたかれ、飛沫をかぶり、アタリもないままに、私はふてくされてヘソ天になった。
抜けるような青い空を白い雲が駆け抜ける。渺茫(びょうぼう)たる大海原のただ中に、神の気まぐれで作られたような感じの八丈島。
ーー魚などは釣れなくてもよいのだ。八丈という大自然の舞台の中で、自分の存在理由というものを発見しただけでも大きい収穫ではないか、と自分を慰め、再び気を取り直してサオを握った。
海は相変わらず荒れて、サラシもひどかったが、そのうち、イソから50bくらいの沖に漂っていたウキがフッと吸い込まれた。
一瞬、根掛かりかなとも思ったが、合わせてみた。思わぬショックで、サオが引っ張り込まれそうになったが、かろうじて体勢を立て直した。
グレだ。イソが動くはずはない。グレだと、もう一度掛け合わせておかねば。テキは、二度、三度猛攻を加えてくる。だが、ハリスは6号。サオは強竿(かん)。
耐えてみた。耐えた。サオを倒してリールを巻いた。
二、三度リールをまいたころ、白いサラシの中から、サオの反発力に屈した黒い塊がポッカリ浮かび上がった。エイ、面倒。ゴボウ抜きや。
イソの上に横たわったこのグレは良く肥えた尾長で、メジャーを当てたら49aもあった。いかんいかん。こんな立派なグレを粗雑に扱っては天罰が当たる。
このあと、表向きに釣っていた妻をよんで、並んでサオを出した。マキエ、サシエも慎重になった。
このポイントはV字型に奥まったところで、ウキを打ち込むと奥へ奥へと入ってしまう。本来なら、そんなに釣れない場所かも知れないが、このときは、なぜかウキがスポスポと入ってくれる。 その一尾一尾を、私達は一生懸命取り込んだ。ハリスが太いから耐えるだけ耐えて、後はポンピングでリール糸を巻いたら、案外早く軍門に下った。それをすばやく、受け玉ですくった。
体長は、八丈ならではの50a前後で、見事に抱卵した尾長グレばかりが揃った。私4尾、妻も4尾。
「私はイシガキダイが一尾多い。」と妻。「ワシの5尾目のグレはお前が掬い損ねたんやないか。」と私。
数はすくなかったが、私達の持つ「釣りのすべて」を燃焼し尽くしたあとの、余裕あるケンカである。
3時間ほど前とは打って変わって「八丈島へ来て良かった」という気持が胸の中を満たしてくれた。(この項続く) (報知APG・高橋 康生)
筆者からひとこと: このときのグレは、本当にハンコで押したように同型のグレでした。最低で48a、最高で53a。よかった、よかった。