報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和57年4月24日
釣りのシミュレーター
このほど、ある釣具メーカーが東京で展示会を開催した。広大な会場には、所狭しと釣具が展示され、即売展が立ち並び、釣り教室、釣り映画、釣り相談所などが設けられている中で、ひときわ人気を集めていたのが、釣りのシミュレーターだ。
SIMULATOR=もう日本語にもなっているが、訳せば模擬装置。釣り人がステージへ上がって竿を構えると、あとは機械が魚と対決する様を実現してくれるのだ。
釣り人の真正面には、電光掲示板と、デカイ温度計のような目盛りにウキが浮いているのが見える。竿を構えて立つ人は、まずウキを見つめる。水面に浮いているが、ツツーッと沈む。間髪を入れずに竿を立てて合わせをくれたら第1関門突破。
続いて魚のシメ込みが始まる。魚の引きの強いときは、竿をためて頑張り、弱いときはリール糸を巻く。それも敏速にやらないと、持ち時間がなくなり失格となる。かといって強引にやると、ハリスが切れる。(実際には切れなくても、ブザーがなり、電光掲示板に「ハリス切れ」の表示が出る。
対象魚には、中グレ、大グレ、ヒラマサなどがあり、出場者の希望によってセットされる。なかなか興味深い装置だし、臨場感もあるということで、入場者はもちろん、釣り教室の講師や相談員も挑戦していた。私も2回やってみたが、最初は「ハリス切れ」で次が「時間切れ」。ところが、一流のベテランや、講師先生方も次々と枕を並べて討ち死にしているのだ。中には力みすぎて、本当に道糸を切ったり、竿を折ったりする者も出る始末。
本当にこれほど難しいのかと言えばそうでもない。だんだん回を重ねて練習すれば、それだけの効果はある。つまり、機械の癖が判ってくるのだ。魚に擬した滑車が左右に大きく走っている間は巻き取りのチャンスだとか、左右運動が終わった後に最も強い引きが来るとか、どんなに強く引いても、リールさえ巻かなかったら「ハリス切れ」は起こらないとか・・・。それに、所詮機械は機械。精巧に出来ているようでも、実物の魚との間には誤差がある。その証拠に、名人たちが連続でバラス反面、女の人や子供だと、却ってスンナリ成功するケースが多いのだ。
ところで最近、ヤケに魚が釣れなくなった。シミュレーターの出現で、ふと思ったのだが、釣れない不満が嵩じてきたら、将来しみゅれーたーが釣りへの郷愁を満たす手段になる時代が来るのではないか。現に、「パチンコの向こうをはって、この装置で一儲けしてやろうか」などと早くもソロバンをはじく人もいたくらいだ。釣り人の欲望をある程度満たしてくれるをシミュレーターを開発したメーカーに敬意を表する一方で、なんとなく心が冷え冷えしてきた。 (報知APG・高橋 康生)
筆者からひとこと: いまでも、同じシミュレーターを使っていることがありますが、幸か不幸か、釣り界のパチンコというまでは発展しませんでした。やれやれ。・・・でもその代わり、パソコンゲームは盛んなようですね。