報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和56年11月7 

ド迫力!音の効果


 その日は、牟岐大島でアイゴを狙っていた。早朝にバタバタと大型が二尾釣れたあげくだけに、かなり気負っていたのだが、その後が続かない。ウキはスンナリ水中に引いてくれるのだが、どれもこれも20aほどの小イサギばかりだった。強烈なアイゴのアタリのあとだけに頼りないことおびただしい。
 そのうち、私の動作は機械的になった。ウキが引く。合わせる。リールを巻く。ゴボウ抜きにする−。

 ところが、何尾目かのときに異変があった。リールを巻いて、足もとまで来た小イサギをゴボウ抜きにしようとすると、フッと軽くなった。ハリはずれかなと思って水面を見ると、バチャバチャと音がして、小イサギが水面へ飛び上がって来たではないか。驚いたことには、すぐその後から巨大な黒い影が、ガボガボとこれを追いかける。「ヒラマサや」と思う間もなく、今まで軽くなっていた竿先が急に重くなった。哀れな小イサギは、パクリとやられたのだろう。

 ふと我に帰った私は思わぬ収穫にほくそ笑んだ。大きくしなった竿先を見ながら、早くもヒラマサを釣り上げたような気分になっていたのだ。そして、その幸運を確かめるように、竿をグッとあおってみた。何たる不覚。竿先はフッと軽くなった。食い込みが十分でなかったのだろう。

 失望してリールを巻いたら、小イサギはまだハリについていた。そばまで引き寄せたら、満身創痍で見るも哀れな姿。それでも水面でピチャピチャとはねていた。そこへ水面を割って、ヒラマサが二度目の攻撃を加えた。これは小イサギにも、私にも最後のトドメだった。ヒラマサ奴(め)は、勝ち誇ったように、戦利品をくわえたまま、水中深く姿を消してしまった。

 私の目前でくりひろげられたこのドラマはまさに弱肉強食の地獄絵そのものであった。
 五、六年前にも、私は釣った小グレに72aのメジロが食いついたことがあった。しかし、これは水中で食いついたものだから、そんなに騒々しい音は聞こえなかった。ところが、今回の場合は水面を「バチャバチャ」逃げる、「ガボガボ」追うという音響効果が伴ったから迫力充分。もしこれが動物だったらどうだろう。恐らく逃げる方は「ギャーギャー」とけたたましい泣き声を出すことだろう。それを思うと小イサギに不憫がかかって、しばらくはシラケムードに浸ってしまった。

 だが、ものの十分とたたないうちに、また釣った小イサギをエサに、そこらあたり一面を泳がせてヒラマサを狙っているのだから人間とは随分勝手なものだ。
             (報知APG・高橋 康生)


筆者からひとこと 釣った小グレが72aのメジロに化ける。ーーーこんなこともあるものですね。あれから25年になりますが、そんなうまい話はただの一度もありませんでした。