報知新聞釣り欄「魚心」から:昭和55年1月5日 正月特集:友釣りの輸出

 正月だから夢を描いてみよう。近年のルアー熱はすさまじいものがある。戦後まもなく、私がアメリカの雑誌でルアーを知ったとき、「まずこの釣りは日本で育つまい」と思った。これだけ繊細な神経を持つ日本の魚たちが、こんなメタル片や木片に飛びつくはずがないーとの確信を持っていた。事実そうだった。ルアーが輸入されたばかりのころは、対象魚がいないということで完全な拒否反応にあった。ところが関係者の熱意がこれを救った。雷魚やナマズやウグイなどがヒットすることが判った。外来魚を養殖したりもした。「魚は釣って帰って食べるもの」という概念とは別に「魚は釣って楽しむもの」という概念も普及させた。そして、今の黄金時代を作り出したものだ。

 私が今ここで書こうとしていることは唐突といえば唐突だが、上述のルアーの伝でゆけば実現不可能だと断言は出来ない。
 ーそれは日本から釣りを輸出することだ。もっと詳しく言って、私はアユの友釣りを世界中に広めたいのだ。この釣りの発想がどれだけユニークなもの(日本的なもの)であり、この釣り味がどれだけ面白いものであるかは、この釣りを知るすべての人の認めるところ。そして、こんなすばらしい釣りが、他のどんな國においてもなされていないということは、世界中の国々を歴訪しているわが釣友ノーマン・エドワーズさんの証言でも明らかだ。
 とはいっても、問題はその國にアユと同じ様な性格を持っている魚がいるかどうかということになる。百科事典では、この魚、北海道の天塩川と噴火湾以南の日本と、台湾、朝鮮半島西部、中国南部にしか分布していない、とある。だが、魚類の分類表によれば「ニシン目アユ科」とある。もしかしたら、ニシン目のなかに、アユと同じように、テリトリーを守る性格の魚がいないとは限らない。
 可能性はまだある。もし百歩譲って、アユと同じ性格の魚がまったくいなかったとしても、日本のアユを輸出して、放流することはできないだろうか。湖産アユが琵琶湖水系では大きくならないのに、他の河川へ放流すれば見違えるほど大きく成長するように、国外、たとえばアメリカ大陸や、オーストラリアなどの河川に放流したら、更に大きく成長したりはしないだろうか。
 日本でなら、せいぜい30a止まりのアユが、もし、50aにも成長したらどうだろう。もし、キングサーモン級の超ド級がテリトリー争いをしたりしたらどうだろう。とてつもなく大きい仕掛けに2尾の巨大な魚が掛かって一気に引っ張ったらー。その豪快さは他に比べようもないだろう。この夢、なんとか実現させたいものだ。
                               (報知APG・高橋 康生)

筆者からひとこと: エドさんも現金なもので、タイでお嫁さんを見つけたら、日本へ帰らなくなりました。「便りのないのは、元気な証拠」と解釈しておきましょう。